会長就任挨拶
更新:2000年8月6日



第19期会長 波平 恵美子
日本民族学会第34回大会
2000年5月21日一橋大学にて

 特にここ10年間、日本民族学会は様々な問題に取組んできました。それらの問題のあるものは外からもたらされ、あるものは内部から発生しました。例えば、外部からもたらされたものとしては、大学の組織やカリキュラムの大きな変革に伴って生じた文化人類学という教育科目の、大学教育の中での位置づけの変化があり、このことは、学会の中核となる学問領域の再生産にとってその後数十年にわたって続く影響をもたらします。内部から生じた問題としては、例えば、増大する会員に対応しての組織の変革であり、また、学会の内容と名称との整合性を検討するものでありました。それらの問題のいずれもが、各会員に学問的アイデンティティと学会の活動内容との関係に係るものでした。学会組織にしても、学会誌の発刊に係る問題にしても、そもそも学会とは何であるかを問い直させるものです。
 理事会はこれまで懸命にそうした問題に取組んできましたが、会員の学会への認識の多様化によって、学会運営はより複雑化し、問題の解決はより困難になってきています。解決したとはいえ、絶対的にそれが良いとはいえず、あたかも剃刀の刃の上を渡るようなものとなっています。こうした状況は今後も続くでしょう。
 しかし、多くの会員が日本民族学会だけではなく、複数の学会に所属している状況の中で、個々の会員にとって本学会が最も魅力のある、最も刺激に満ちた学会であるよう、前期に引続き、第19期理事会・会長も努力いたします。一つとしては、特別委員会を組織し、民族学・文化人類学の教育内容の検討と改革の検討を致します。
 ところで、こうした努力を可能にするためには、学会の財政上の安定は不可欠であると考えます。本学会は今から17年前、たまたま私が理事の一員であった時に、それまでの4000円から8000円の2倍に会費値上げを行いました。2倍の値上げは、当時としては大きな決断でありましたが、それは、長期にわたって安定した学会運営を行うためでありました。余剰金は、学会の将来計画のための基金として積み立ててきました。先程から申し上げている学会の特別な活動は、この基金に負うことが大きかったのです。しかし、小田会計担当理事が報告しましたように、17年の間に少しずつ経費が増大し、来年度2001年度には会費値上げが避けられないことが、繰り返し検討した結果明らかとなりました。実際の議案提出と値上げの決定は来年度なのですが、経済不況の今日の状況を考えまして、今回の総会でご報告・説明し、会員の皆様の了解を得られることを願っております。なお、前期に引続き、支出の削減のための一層の努力を致す所存です。以上をもちまして会長の挨拶と致します。