日本文化人類学会倫理綱領

更新:2008年6月3日



前文

日本文化人類学会は、文化人類学の研究・教育および学会運営にあたって依拠すべき倫理上の基本原則と理念として、ここに「日本文化人類学会倫理綱領」を定める。

本綱領は、日本文化人類学会会員が心がけるべき倫理綱領であり、会員は社会の信頼と負託に応えるため、そして文化人類学の調査・研究の進展のためにも、本綱領を十分に認識し、遵守しなければならない。

文化人類学の調査・研究は、あらゆる学問と同様に、社会の信頼と理解の上に成り立っているが、そのことは調査・研究の対象となる社会においても、また研究者の所属する社会においても、共通の真理である。したがって、われわれはこのような学問の公共性と公益性ならびに社会的責任を常に自覚し、真摯に知識を希求するとともに、その成果を人類社会の平和と福祉に寄与すべく、広く社会に還元するよう努めなければならない。

また文化人類学の教育・指導をする際にも、本綱領にもとづいて、文化人類学教育および文化人類学研究における倫理的な問題について十分配慮し、学習者にも注意を促さなければならない。

文化人類学の研究・教育の発展と質的向上、創造的な研究の一層の発展のためにも、本綱領は、日本文化人類学会会員に対し、研究・教育における倫理的な問題への自覚を強く促すものである。

【地球市民としての倫理】

1条 (人権および諸権利の尊重)
われわれは、いかなる場所・場合においても人権を常に尊重し、プライバシー、肖像権、知的財産権、著作権などの諸権利に留意して、それらを侵害してはならない。

2条 (差別的処遇の禁止)
われわれは、年齢、性別、性的指向、思想信条、信仰、障がいの有無、民族的背景、身体の形質的特性、国籍、出自などに基づく差別的な扱いをしてはならない。

3条 (ハラスメントの禁止)
われわれは、ハラスメントにあたるいかなる行為もしてはならない。

【調査地や調査対象の人々に対する倫理】

4条 (説明責任)
文化人類学の調査・研究を行うに際し、われわれは調査地・調査対象の人々に対して当該調査・研究の目的、方法およびその成果公表などの一切に関する説明責任を負うことを銘記しなければならない。

5条 (危害や不利益の防止)
われわれは、調査・研究対象として関わる人々の生命・安全・財産を決して損なったり侵害したりすることなく、また、直接的・間接的な危害や不利益が生じないように万全の体制を整えて調査・研究に臨まなければならない。

6条   (調査・研究成果の地域への還元)
われわれは、調査・研究成果の地域への還元と地域での利用可能性の保障を念頭に、広く社会的還元に努めなければならない。

【研究者間における倫理】

7条 (調査・研究成果の剽窃・盗用・捏造の禁止)
われわれは、他人の研究成果を剽窃または盗用したり、データを捏造したりすることがあってはならない。

8条 (共同研究等の実施・成果公表と著作権の明確化)
調査・研究を複数の研究者が共同で、あるいは他者の協力を得て行う場合、その実施上の役割分担や責任の所在、および、その成果が公表される場合の著作権等について十分な合意形成をしておくことに留意しなければならない。

9条 (相互批判・相互検証の場の確保)
われわれは、開かれた態度を保持し、相互批判・相互検証の場の確保に努めなければならない。また、他人の研究を妨害してはならない。

【雇用主や資金提供者に対する倫理】

10条 (資格や技能の正確な報告)
われわれは、自らの資格や技能を雇用主や資金提供者に、偽ることなく伝えなければならない。

11条 (適正な資金の取り扱い)
われわれは、雇用主や資金提供者から与えられた資金を適正に使用しなければならない。

12条 (適正な契約)
われわれは、本倫理綱領に反するような契約や約束を雇用主や資金提供者と結ばないように留意しなければならない。

 

附則1. 本綱領は2008年6月1日より施行する。

附則2. 本綱領の変更は、日本文化人類学会理事会及び評議員会の議を経て、同総会の決議を経ることを要する。