日本文化人類学会賞・学会奨励賞

更新:2019年2月26日



第10回日本文化人類学会賞の授賞

2015年05月31日

 日本文化人類学会は第10回日本文化人類学会賞を浜本満氏に授与することとした。
(授賞対象業績)
『信念の呪縛―ケニア海岸地方ドゥルマ社会における妖術の民族誌』(2014年、九州大学出版会)を代表作とする人類学的理論構築に関する一連の業績
(授賞理由)
 浜本満氏は、ケニアのドゥルマ社会において30年にわたり調査を実施してきた。個別事例の民族誌的記述と理論的分析の両者を説得的・効果的に接合しようとする浜本氏の研究姿勢は初期の論稿から新著『信念の呪縛』(2014年)に至るまで一貫しており、浜本氏の一連の研究が多くの研究者や学生を魅了し、高度な知的刺激を与え続けてきた点は高く評価される。
 浜本氏は物象化論やイデオロギー論、現象学、分析哲学、構造分析等に関する広範かつ重厚な知識を背景として、文化人類学者が立てるべき問いが何であるかという点を執拗に追究してきた。それは、過去の一連の論文および前著『秩序の方法』(2003年)においても顕著である。例えば、『秩序の方法』で浜本氏は、儀礼的行為の無根拠性(恣意性)を焦点化し、儀礼の背後につい想定したくなる文化的意味や社会的規則の無根拠性を指摘する一方で、なぜ人びとがそれらの無根拠な規則に捕らえられ、いかなる秩序をリアリティとして生きているかを解明しようと試みた。
 『信念の呪縛』はドゥルマ社会の妖術信仰と実践を研究対象とした「信念の生態学」に関する民族誌である。執拗なまでに細部に拘った記述を通して、浜本氏は妖術という信念の性格について、そもそも「信じる」という行為が語られ、可能になる条件を論理的に検討しながら、ドゥルマの妖術もまた些細な出来事を契機として「自己を再生しつづけていく巨大な物語装置」であると同時に、この巨大な物語装置は些細な出来事で停止する可能性をもつ信念であることを看破してゆく。そして、妖術に呪縛されない浜本氏自身の信念をドゥルマの妖術信念への対抗言説として用いながら、現代社会における信念の在り方についての議論を一般読者にも分かりやすい形で提示することに成功している。
 浜本氏の上記業績は、フィールドワークに基づく民族誌という古典的なフォーマットを採用しながらも、人びとの語りと実践を忠実に再演しつつ、そこから文化人類学的思考の可能性を極めた研究として人びとを啓発し、挑発する知的刺激に満ちており、文化人類学的知の一つの到達点を示している。
 以上の貢献を高く評価し、浜本満氏に第10回日本文化人類学会賞を授与する。

第10回日本文化人類学会奨励賞の授賞

2015年05月31日

 日本文化人類学会は下記の2名に第10回日本文化人類学会奨励賞を授与することとした。
(受賞者)
大場千景
(授賞対象論文)
「無文字社会における『歴史』の構造―エチオピア南部ボラナにおける口頭年代史を事例として」
(『文化人類学』第78巻1号、2013年)
(授賞理由)
 本論文は、エチオピア南部ボラナ社会の口頭年代史に関する詳細なフィールドデータに基づいて、ボラナの人びとが過去や現在、さらには未来のさまざまな出来事を、彼らの社会構成原理(年齢階梯制、特に父子は互いに4世代離れた年齢階梯に属さなければならないという「ゴゲーサ」のサイクル)と文化概念装置(運命論ないし災因論としての「マカバーサ」のサイクル)の複合から成る「回帰する歴史」の構造の中に組み込んで伝承ないし記憶していることと、逆に、さまざまな出来事を歴史の中に組み込むという実践を通して、ボラナの人びとが「回帰する歴史」の構造を持続的に創出、再編していることを明らかにした論考である。
 広範囲にフィールドワークを実施して信頼に足る十分なデータを収集し、また、そのデータをオーソドックスではあるが緻密かつ大胆に分析してボラナ社会の当事者の歴史認識のあり方や再編の実態を明らかにする大場氏の手際は鮮やかである。また、ボラナ社会の歴史の「構造」が本来的に歴史を一元化すると同時に多元化(複数化)するものでもあることを明らかにし、ローカルな場における出来事の解釈や記憶、伝承といった歴史的実践を丹念に調べ、綿密に分析することによって、初めて当該社会の歴史認識のあり方や思考の広がりの解明が可能となることを説得的に示した点も高く評価される。
 以上の理由により、本論文を高く評価し、日本文化人類学会研究奨励賞を授与する。
 
(受賞者)
左地(野呂)亮子
(授賞対象論文)
「空間をつくりあげる身体―フランスに暮らす移動生活者マヌーシュのキャラヴァン居住と身構えに関する考察」
(『文化人類学』第78巻2号、2013年)
(授賞理由)
 本論文は、フランス南西部において、1年のうち一定期間だけを移動生活に充てているマヌーシュが生活拠点とする居住地を考察の対象とし、そこで、拡大家族集団が共住の単位となり、まとまって置かれた複数の移動式住居(キャラヴァン)の内部と共同で利用する周辺の野外環境とが全体としての生活領域を構成することを記述する。その綿密な記述から、マヌーシュの生活領域が家屋の内部と外部に二分されるものではなく、また日中の大部分を過ごす野外空間がさらに外部に広がる環境からも明確に分断されないという特徴を持つことを析出する。さらに隣人の宿営区画や人が行き来する道、広場など、定住社会の住民を含む周辺の人々と遭遇する可能性が高い空間に身体の正面を向け、「視線が相互に交じり合う空間」をつくりだすマヌーシュの日常的「身構え」は、共在感覚を創出することによってマヌーシュの居住空間を閉じたものとせず、潜在的緊張関係にある他者を含む外部へと拡張するような空間構築を可能にしていることを明らかにする。
 本論文は、家屋の構造や配置といった物理的な空間構成要素の分析にとどまらず、居住空間構築プロセスにおけるマヌーシュ特有の身体の積極的役割を明らかにし、それが周辺社会の近代的な空間認識と軋轢を引き起こす要因ともなっていることを示すと同時に、その自他を包摂する空間社会生成の可能性を説得的に示すことに成功している。
 以上の理由により、本論文を高く評価し、日本文化人類学会研究奨励賞を授与する。

第9回日本文化人類学会賞の授賞

2014年04月11日

 日本文化人類学会は第9回日本文化人類学会賞について該当者なしとした。

第9回日本文化人類学会奨励賞の授賞

2014年04月11日

 日本文化人類学会は第9回日本文化人類学会奨励賞について該当者なしとした。

第8回日本文化人類学会賞の授賞

2013年06月09日

 日本文化人類学会は、第8回日本文化人類学会賞を菅原和孝氏に授与することとした。
(授賞対象業績)
ブッシュマン研究を基盤とした唯身論の人類学構築に関する一連の研究
(授賞理由)
 菅原和孝氏は、多年にわたりグイ・ブッシュマンの調査研究を推進してきた。会話分析をもとに身体と言葉・コミュニケーションを研究する姿勢は、最初の著作『身体の人類学』(1993年)と編著『コミュニケーションとしての身体』(1996年)以来一貫しており、その後も『語る身体の民族誌』(1998年)、『会話の人類学』(1998年)、『もし、みんながブッシュマンだったら』(1999年)、『ブッシュマンとして生きる』(2004年)などを刊行し、多大な成果を収めてきた。また霊長類学から出発した研究経歴をいかし、2002年にはサルとヒトの感情の連続性を論ずる『感情の猿=人』というユニークな研究も発表した。2010年の『ことばと身体−「言語の手前」の人類学』は、身体を基軸とする対面相互行為とコミュニケーションに関わるこれら研究の成果を総括し、さらに展開させたものである。同書では、グイ・ブッシュマンだけでなく、日本の大学生の日常会話、ならびに日本の民俗芸能の型の伝承という別々の領域を扱いながらも、社会的な存在としての人間の身体の振る舞い方の基底にある特徴的傾向を浮き彫りにしようとした。
 「天下り的な理論」によるのではなく、普通の人びとの間身体的行為を直接観察する経験に基づいて思考することが人類学の特質であり、人類の社会と文化の成り立ちを考察して生活者が生きやすくなるための方途を模索し実践するのが人類学の使命である、と菅原氏は説く。『ことばと身体』では、自らの立場を「唯身論」と名づけ、身体的実在論に基づく心身一元論的な独自の人類学的領域を開拓した。さらに菅原氏はJounal of Pragmatics誌への寄稿論文(2009, 2012)等によって、日本における人類学のユニークな展開を海外に強く印象付けてアピールした。これらの点は高く評価しなければならない。
 教育面においても、『フィールドワークへの挑戦−<実践>人類学入門』(2006年)では、好奇心に突き動かされてフィールドワークに初めて挑戦した大学生たちのレポートを幾つも例示して、彼らが現場で突き当たった諸々の課題を浮き上がらせ、忌憚のないコメントを付して改善の方向性を具体的に指し示した。その結果、同書は実践的なテキストとして増刷されてきた。菅原氏の指導を受けた学生の中から日本文化人類学会奨励賞や渋澤賞を受賞した若手研究者がいることもあわせて、その人類学教育における貢献は高く評価される。 日本文化人類学会は、ことばと身体に着目し、フィールドでの経験の直接性に基盤を置き、独自の人類学を構築して研究・教育の両面で卓越した業績を挙げ、本学会の活性化と発展に多大なる貢献をなしてきたことを高く評価し、菅原和孝氏に第8回日本文化人類学会賞を授与する。

第8回日本文化人類学会奨励賞の授賞

2013年06月09日

 日本文化人類学会は第8回日本文化人類学会奨励賞を吉田ゆか子氏に授与することとした。
(受賞者)
吉田 ゆか子
(授賞対象論文)
「仮の面と仮の胴―バリ島仮面舞踊劇にみる人とモノのアッサンブラージュ」
(『文化人類学』76巻1号、11-32頁、2011年)
(授賞理由)
 本論文は、バリ島の仮面舞踊劇トペンの上演を人とモノとの動的で過程的な複合体であるアッサンブラージュとしてとらえその考察を試みたものである。
 トペンの仮面には、それをまとう演者の演技を生み出したり演技を失敗に導いたりするなど、演者に働きかける側面がある。また仮面と演者の関係は、仮面が演者にとって「仮の面」であるだけでなく、仮面が人間より長くこの世にとどまり同じ一つの仮面をその時々の演者がまとっていくなら、演者が仮面にとって「仮の胴」でもある。このように、モノである仮面と人である演者の関係を、単純に主体対客体ととらえる立場を吉田氏は批判し乗り越えようとする。
 さらに先行研究と吉田氏自身が舞踊の演者になるという体験を踏まえながら、吉田氏は、仮面だけでなく音楽の伴奏者や観客、仮面に宿る神格の相互の関係の変化が演技のモードの変化につながることを指摘し、誰(何)が出発点と断定できず、働きかける者/モノと働きかけられる者/モノが、多層的かつ反復的に連なっていくトペン上演の姿を明らかにしている。こうした試みによって、アッサンブラージュという容易にはとらえがたい近年の概念を具体的に描き出すことに成功している。先行研究のいずれもがトペンのパフォーマンスの豊かさと巧みさや社会的な重要性を讃えるものの、現実にはしばしば見られる貧寒とした上演現場の光景に言及しないのに対して、著者はそれを度外視しない。この姿勢は、逆に、研究対象の「不変の本質」を追究しないアッサンブラージュという概念の特質を浮き立たせる効果も生んでいる。
 またトペン上演という限られた時空間を越えたより壮大なタイムスケールの中に仮面と演者の関係を位置づけていこうとする意欲的な姿勢も本論文には見られる。
 タクスーとはトペンが人を魅了する力のことであるが、本論文には読者を惹きつける独特のタクスーが備わっており優れた論文と評価できる。今後インドネシアの仮面劇に限らず、演劇人類学の分野で吉田氏の活躍が大いに期待される。
以上、独自の考察力による優れた成果と今後の発展の可能性に鑑みて、本論文を奨励賞にふさわしいものと判断した。


第7回日本文化人類学会賞の授賞

2012年06月24日

 日本文化人類学会は第7回日本文化人類学会賞を松田素二氏に授与することとした。
(授賞対象業績)
アフリカ研究を起点とする日常性のダイナミズムの解明に関する一連の研究
(授賞理由)
 松田氏は、『都市を飼い慣らす』(河出書房新社、1996年)や『抵抗する都市』(岩波書店、1999年)、『呪医の末裔』(講談社、2003年)等の著作に見られるように、一貫して、ケニアでのフィールドワークの成果を核にして、植民地支配や独立、民族対立、経済成長、失業、貧困、エイズ、「テロ」等に彩られたアフリカの「近代」の中で、したたかに生きる普通の人々の日々の営みを、「生活を成り立たせるための共同性の希求」の観点から読みとることを試みてきた。
 また、松田氏は、アフリカの生活世界の中で生成・発展・変容してきた生活知や制度を現代のグローバル化した世界にリンクさせ、それらを、現代社会や未来社会において生起するさまざまな困難に対処し、状況を改善するための人類共通の資源として整序・再生することの重要性を指摘してきた。その成果は、日本を含むアジア世界と比較対照されるとともに、文化人類学を超えた隣接諸領域にも拡大され、広く現代世界の「人間の生」をめぐる諸問題にかかわる積極的な発信に結実している。
 そうした研究の営みは、「過去の傷はいかにして癒されるか」(棚瀬孝雄編『市民社会と責任』有斐閣、2007年所収)や「グローバル化時代の人文学」(紀平英作編『グローバル化時代の人文学対話と寛容の知を求めて』京都大学出版会、2007年所収)、「21世紀世界におけるアフリカの位置」(松原正毅編『2010年代 世界の不安、日本の課題』総合研究開発機構、2007年所収)、「複数化する間身体」(菅原和孝編『身体資源の人類学』弘文堂、2007年所収)、「グローバル化時代における共同体の再想像について」(『哲学研究』第585号、2008年)、「『アフリカ』から何がみえるか」(『興亡の世界史20―人類はどこへ行くのか』講談社、2009年所収)等の諸論考に辿ることができる。これらは人類学を志す若い研究者への挑発的な問題提起であるとともに、里程標ともなってきた。
 こうした長年にわたる実証的・理論的な研究の中間的な総括として、2009年、松田氏は『日常人類学宣言!』(世界思想社)を上梓し、文化人類学の学問的営為を、「生活世界の深層に依拠し、そこから世界をとらえ世界に働きかけようとする」ものとして再構築する骨太の構想を提示し、文化人類学が今後取るべき一つの有力な方向性を示すに至っている。
 加えて、松田氏は、日本文化人類学会の学会事業である『文化人類学事典』(丸善、2009年)の刊行に際して、編集委員長としての重責を果たした。
 日本文化人類学会は、アフリカでのフィールドワークに基づく実証的研究並びに文化人類学の理論・方法論において卓越した研究業績を挙げ、本学会の活性化と発展に多大なる貢献をなしてきたことを高く評価し、松田素二氏に第7回日本文化人類学会賞を授与する。

第7回日本文化人類学会奨励賞の授賞

2012年06月24日

 日本文化人類学会は第7回日本文化人類学会奨励賞を野澤豊一氏に授与することとした。
(受賞者)
野澤 豊一
(授賞対象論文)
「対面相互行為を通じたトランスダンスの出現―米国黒人ペンテコステ派教会の事例から」
(『文化人類学』75巻3号、417-439頁、2010年)
(授賞理由)
 本論文は、米国黒人ペンテコステ派等の教会の礼拝時に行われる会衆の歌唱や音楽を伴ったトランスダンス「シャウト」について緻密なフィールド調査を実施し、それに基づいてシャウト行為「出現」のプロセスについてミクロな分析を試みたものである。
 野澤氏はゴフマンの「焦点の定まった集まり」の概念を援用しつつ、固定的な役割に還元されない「シャウト発生時の相互行為に内在する非決定的な性質」を主題化し、教会のセッティングと会衆の動きの映像と音響の記録に基づいて秒単位の記述・分析を行っている。本論文は、相互行為のなかで自律的に生成される「非決定性」に着目して、コミュニケーション過程分析を行うとともに相互行為の記述を緻密・精確に行っており、その上でトランス行為を「非決定性」並びに「非自己」の観点から分析して、身体的相互作用が表現の相では日常性と地続きであることを明らにするものであり、人類学に新たな領域を開拓したものとして高く評価される。
 本論文は、また、トランスダンスの相互行為のミクロ分析から得られた結論を拡張し、単にトランスという身ぶり表現と「表情」の議論を超えて「間身体性」の主題へと議論を進めるなど、将来的にインパクトのある理論的研究に展開する可能性をも予感させるものとなっている。
 以上、緻密・着実な方法による優れた成果と今後の発展の可能性に鑑みて、本論文を奨励賞にふさわしいものと判断した。


第6回日本文化人類学会賞の授賞

2011年06月12日

 日本文化人類学会は第6回日本文化人類学会賞を波平恵美子氏に授与することとした。
(授賞対象業績)
独自の医療人類学分野の確立、および文化人類学の普及に関わる一連の研究
(授賞理由)
 波平会員は「ケガレ観念」を中軸に据えて、日本における死・出産・月経・穢れ・病などをめぐる儀礼および禁忌事項の実証的分析を重ね、日本人の信仰に深く複雑に絡む「不浄」の観念の解明を試みてきた。波平会員の『ケガレ』(東京堂出版1985年初版、講談社学術文庫2009年)に始まる基礎研究と、『脳死・臓器移植・がん告知―死と医療の人類学』(福武書店、1988年)に始まる現代日本社会の「死」をめぐる諸問題に対する社会的提言は、近年、『日本人の死のかたち―伝統儀礼から靖国まで』 (朝日選書、2004年)や『からだの文化人類学―変貌する日本人の身体観』(大修館書店、2005年)などの著作において綜合され、独自の医療人類学分野を結実させた。その研究成果は、日本の文化人類学・民俗学に新たな研究領域を拓いただけではなく、宗教学、生命倫理学、死生学等々の隣接研究領域にも多大な貢献を果たしている。
 波平会員の貢献は単に専門分野の研究のみならず、文化人類学を隣接学問分野や一般社会に普及することにも及んでおり、『文化人類学―カレッジ版(第2版)』(医学書院、2002年)、『質的研究Step by Step―すぐれた論文作成をめざして』(医学書院、2005年)、『質的研究の方法―いのちの"現場"を読みとく』(春秋社、2010年)などの医学・看護学分野の学生向け教科書の刊行を手掛けている。また、早い時期から小学生などの一般読者向けの一連の著作も刊行しており(『生きる力をさがす旅―子ども世界の文化人類学』出窓社、2001年、『いのちってなんだろう (10歳からの生きる力をさがす旅 (1)) 』出窓社、2007年、『きみは一人ぽっちじゃないよ (10歳からの生きる力をさがす旅 (2))』出窓社、2007年、『生きているってふしぎだね(10歳からの生きる力をさがす旅(3))』出窓社、2008年、『家族ってなんだろう (10歳からの生きる力をさがす旅(4))』出窓社、2008年)、文化人類学を発信源とするこの種の著作の刊行は国内外に類例を見ない画期的な貢献と言えよう。
 日本文化人類学会は、独自の医療人類学を確立するなど優れた研究業績をあげて学会の活性化に寄与するだけでなく、文化人類学の社会一般への普及に大きく貢献したことを高く評価し、波平恵美子会員に日本文化人類学会賞を授与する。

第6回日本文化人類学会奨励賞の授賞

2011年06月12日

 日本文化人類学会は下記の2名に第6回日本文化人類学会奨励賞を授与することとした。
(受賞者)
田村うらら
(授賞対象論文)
「トルコの定期市における売り手−買い手関係―顧客関係の固定化をめぐって」
(『文化人類学』第74巻第1号、2009年)
(授賞理由)
 本論文は、トルコ第三の都市イズミル市ブジャ区の定期市における長期の参与観察に基づいて、夥しい数の売り手と買い手が一見無秩序に混在する定期市において、売り手−買い手関係の一定の固定化、すなわち「顧客化」がおこるメカニズムを解明したものである。定期市における「顧客化」についてはこれまで、市という場における「情報の不確実性」のリスクを回避する方法という消極的な側面から論じられることが多かった。これに対して、田村は、上記の定期市において自らが売り手や買い手になるというような詳細かつ綿密な参与観察を通して、買い手の側からの積極的な買い方の選択、田村の言葉によれば「選ぶ場を選ぶ、選び方を選ぶ」方法としての「顧客化」の過程を描き出した。また、この「顧客化」が、トルコにおける「友人関係」に特徴的な互酬関係とは慎重に分離されている点も明らかにしている。
 田村論文は、今後、システムとしてのバザール経済の研究へと大きく展開する可能性を秘めた密度の濃い 緻密な研究であり、奨励賞に値すると判断した。
 
(受賞者)
中谷和人
(授賞対象論文)
「『アール・ブリュット/アウトサイダー・アート』をこえて―現代日本における障害のある人びとの芸術活動から」
(『文化人類学』第74巻第2号、2009年)
(授賞理由)
 近年、人類学のフィールドに見出されるいわば周縁的な創作活動の評価を通じて「芸術」や「芸術作品」を再定義する試みがなされはじめている。中谷論文は、「何らかの特権的能力や属性、主体の存在を前提しない」芸術ないし芸術作品論を組み立てるアルフレッド・ジェルを参照しつつ、関西圏の二つの通所型の障害ある人びとの芸術活動拠点における「アール・ブリュット/アウトサイダー・アート」の生成の現場で、興味深くまた洞察に富んだ観察と考察を行うことに成功している。一方の施設では、障害ある作者の作品の美術市場での認知と商品化による作者のノーマライゼイションを志向し、創作への徹底した不介入の方針をとることが示される。もう一方の施設では、障害のある人びとの活動の尊重と介助の一環として「作品」が制作されていることが示される。そして、結論として、いずれの場合も、障害のある人びとが作品を通じて外部世界に開かれ、新たな関係を構築する可能性を示していることが強い説得力をもって考察されている。
 中谷論文は、文化人類学が「芸術」や「芸術作品」という新しいフィールドに、特権的能力や主体を前提としない新しい接近法をもって取組む可能性を提示するものとして高く評価することができ、奨励賞に値すると判断した。


第5回日本文化人類学会賞の授賞

2010年06月13日

 日本文化人類学会は第5回日本文化人類学会賞を山下晋司氏に授与することとした。
(授賞理由)
 山下晋司氏は、観光人類学という新たな分野を定着させることで、日本文化人類学会の内外にわたって大きな貢献を果たしてきた。内においては、文化人類学のあり方が大きく問い直されてきたここ10数年来の動きの中にあって、文化人類学の歩む新たな方向性の一つを打ち出してきた。そうした山下氏の視点は、過去5年間の業績で言えば、2007年の編著書『観光文化学』、2009年の著書『観光人類学の挑戦』などに総括されている。一方外においては、観光人類学に関する一連の著作を通して文化人類学以外の分野にも大きな影響を与え、山下氏は、日本における観光研究のリーダーの一人として活躍してきた。その意味で、日本の学界の中で、文化人類学のプレゼンスを大いに高めてきたといえる。付加的であるが、山下氏は、2005年の編著書『文化人類学入門―古典と現代をつなぐ20のモデル』などに見られるように、新しい視点から文化人類学を捉えなおした教科書の編集に精力的に取り組んでおり、この点も文化人類学を広く世に問うための試みであるといえよう。
 さらに山下氏は、国際的な舞台においても大きな研究成果を挙げている。そのことは2004年に世に問うた共編著書 The Making of Anthropology in East and Southeast Asia が2005年の米国 Choice of Outstanding Academic Titlesに選ばれたことが証明している。また、海外の主要学会で研究分科会などを積極的に組織し、様々な国際シンポジウムで発表を行って精力的かつ継続的に学術的発信活動を展開するとともに、人文社会科学の分野で定評のある Berghahn Books の Asian Anthropologies シリーズの general editor を務め、自ら3冊の編著を刊行するなど、国際的に日本の文化人類学のプレゼンスを高める活動は続いている。
 以上のことから、日本文化人類学会は、優れた研究業績をあげた会員であり、本学会の活性化に寄与している山下晋司氏を、日本文化人類学会賞の受賞者として選考する。

第5回日本文化人類学会奨励賞の授賞

2010年06月13日

 日本文化人類学会は第5回日本文化人類学会奨励賞を卯田宗平氏に授与することとした。
(授賞対象論文)
「生業環境の変化への二重の対応─中国・ポーヤン湖における鵜飼い漁師たちの事例から」
(『文化人類学』第73巻第1号、2008年)
(授賞理由)
 卯田論文は中国内陸部のポーヤン湖での綿密な現地調査を通じて、鵜飼い漁師たちの生業実践とその変化を説得的に記述・考察している。同論文では、20世紀前半期、新中国の成立と集団化政策の実施期、人民公社解体後の時期、市場経済の導入・浸透期、という時代区分にほぼ対応させて、国家政策による社会経済体制の変化に連動してきたと考えられる調査地域の漁撈活動の総体的変化および生態環境の変化が考察され、鵜飼い漁における技術の経時的再編と生業規範の再編が、互いに有機的に連関し合って展開してきたことが明晰に描出されている。
 卯田氏の論考は、現代中国の内陸部漁撈社会の現実について緻密で貴重な民族誌資料を提供するとともに、現地研究者やその先行研究からの知見を着実に踏まえつつ、最新技術の衛星画像データをフィールドワークの場でも積極的かつ実験的に活用するなど、斬新な着想や開かれた研究姿勢も高く評価され、今後の調査研究の進展が大いに期待されるものがあり、奨励賞にふさわしいと評価できる。


第4回日本文化人類学会賞の授賞

2009年04月03日

 日本文化人類学会は第4回日本文化人類学会賞を内堀基光氏に授与することとした。
(授賞対象業績)
 文部科学省科学研究費補助金特定領域研究『資源の分配と共有に関する人類学的統合領域の構築─象徴系と生態系の連関をとおして』の領域代表者としての一連の研究活動
(授賞理由)
 内堀基光氏は2002年から2007年にかけて実質4年半にわたって実施された文部科学省科学研究費補助金特定領域研究『資源の分配と共有に関する人類学的統合領域の構築─象徴系と生態系の連関をとおして』の領域代表者として、近年の文化人類学研究においてはまれな規模となる研究プロジェクトを組織し、文化人類学の新たな可能性を拓く意欲的な試みを主導した。同研究プロジェクトの内容は、「資源」をキーワードに、開発や資源分配をめぐる政治・経済的諸問題をはじめ、世界観や象徴体系という文化・認識次元における資源をも総合的に考察しようとするものであり、それを通じて、文化人類学がその初期に有していた諸学問の統合領域としての地位を再興しようとした極めて野心的な性格のものであり、その成果は同氏の総合編集による論集『資源人類学』全9巻(弘文堂、2007年)に結実している。
 論集『資源人類学』では、従来とは異なる見地から資源という概念に着目し、その概念を導入することによって、人と物との関係のみならず、人と人との関係をも考察の射程に入れている点で、文化人類学が築いてきた理論的な背景と研究手法とが十全に活かされており、資源概念の刷新をもたらすとともに、文化人類学の活性化にも大きく寄与するものと評価される。また、グローバル化の進む現代世界において、資源は環境問題や社会経済システムの再編の脈絡でも頻繁に用いられる最先端の語彙のひとつとなっているが、同論集で推進されている研究では、そうした現実に果敢に取り組み、同概念を相対化することによって、歴史学、社会学、社会哲学、政治学、経済学などの隣接人文社会科学諸領域、さらには自然科学や生産技術など多様な領域の研究成果とを縦横に結び合わせる課題群を設定している。この点も、高く評価されるものである。

第4回日本文化人類学会奨励賞の授賞

2009年04月03日

 日本文化人類学会は第4回日本文化人類学会奨励賞を松村圭一郎氏に授与することとした。
(授賞対象論文)
「所有と分配の力学――エチオピア西南部・農村社会の事例から」
(『文化人類学』第72巻第2号、2007年)
(授賞理由)
 松村氏の論文は、多民族化し変動する現代エチオピア西南部の農村社会における経済行動を、集約的な調査に基づく丹念な事例分析を通して考察した労作である。そこでは農作物等の所有と分配をめぐる人々の相互行為、相互交渉の場に着目する動態論的接近法がとられ、呪術、宗教規範、貨幣経済などの論理や仕組みが、その一連のプロセスにおいて、いかに動員され流用されているか、臨場感をもって興味深く論じられている。
 従来の農村社会における農作物等の所有と分配の研究では、共同体という枠組みから議論される傾向が強かったが、松村氏は、共同体の内部での社会関係には濃淡・親疎があること、また、共同体の外部とも一定の関係が結ばれていることに着目しながら、そうした関係の質と程度に応じて、収穫物の分配がどのような形態・頻度・量になるのかを実証的に明らかにしている。そして、分配する側における分配を促す動機や、分配を期待する側が行う働きかけを考慮に入れつつ、分配という事象を個人間のプロセスとして説得的に描出している。
 村松氏はその論文中で、調査データを適切に配列し、そこから首尾一貫した緊密な議論を導き出しており、その手腕には堅固なものがある。将来性を十分に伺うことができ、その点を高く評価するものである。

第3回日本文化人類学会賞の授賞

2008年06月01日

 日本文化人類学会は第3回日本文化人類学会賞を田辺繁治氏に授与することとした。
(授賞理由)
 田辺繁治氏は、過去5年間において、5編の単著・編著と7編をこえる論文を日本語、英語、タイ語で刊行しており、これらの著作は国内外で高く評価されている。
 長年にわたる北タイ農村部と都市部におけるフィールドワークにもとづく宗教、儀礼、HIV自助グループの実証的研究による貢献はもとより、ハビトゥス・実践コミュニティ・暗黙知といった非言語的な知と技法にかかわる理論的視角をとりこみながら、国家やそれを超えるシステムとの動態的な交渉過程としての現代人の生き方そのものを対象化した、日常的実践についての近年の研究は、「行為者の視点と地平から」世界をとらえなおすという古典的人類学の初心に回帰しつつ、より現在的で、より深い人間理解へと人類学をおしひらく力と勇気が秘められている。
 古典的でラディカルなこうした探究のスタイルは、変動するタイ社会と世界情勢に呼応する近年の仕事にも一貫しており、とりわけ、新書ながらも、人類学を超えて一般読者に広く読まれている『生き方の人類学』(講談社、2003年)に見事に結実している。

第3回日本文化人類学会奨励賞の授賞

2008年06月01日

 日本文化人類学会は第3回日本文化人類学会奨励賞を久保明教氏に授与することとした。
(授賞対象論文)
「媒介としてのテクノロジー――エンターテインメント・ロボット『アイボ』の開発と受容の過程から」
(『文化人類学』71巻4号、2007年)
(授賞理由)
 久保論文は、一企業の開発したエンターテインメント・ロボット犬(アイボ)をとりあげ、科学の民族誌とでもよぶべき新たな領域にいどんだ意欲作である。電子工学という斬新なテーマでありながら、開発と受容のふたつの過程をそれぞれ厚く描くことで、科学と日常、あるいはテクノロジーと文化をダイナミックに橋渡しする視角を提示しえている。開発過程では、理想からは遠い知能システムの技術的水準を、主人に反抗もする気ままさと読みかえることで、役立たないが楽しいパートナーづくりという戦略が生まれたこと、また受容過程では、その機能的不安定さが家族たちの文化的解釈と喜び・怒りなどを感ずる「不思議ストーリー」を生んだことを指摘している。
 電子工学的製作物を媒介とする開発と受容双方のエスノグラフィーを構築することで、テクノロジーに囲まれた現代人の日常生活を深く描き出すことに成功し、人類学の新しい可能性を拓いた点を高く評価する。


第2回日本文化人類学会賞の授賞

2007年06月03日

 日本文化人類学会は第3回日本文化人類学会賞について該当者なしとした。

第2回日本文化人類学会奨励賞の授賞

2007年06月03日

 日本文化人類学会は下記の2名に第2回日本文化人類学会奨励賞を授与することとした。
(受賞者)
石井美保
(授賞対象論文)
「もの/語りとしての運命―ガーナの卜占アファにおける呪術的世界の構成」
(『文化人類学』第70巻第1号, 2005年)
(授賞理由)
 石井氏は、従来の卜占研究の機能主義から主体的戦略論にいたる理論的視角を批判し、ガーナのエウェ民族の卜占についてのミクロな民族誌的記述をふまえて、占師とクライアントの共同作業による多声的なもの語りの構築という新たな卜占研究の道を提示している。そして、卜占につづく供犠の過程において、身体的な演技を介してクライアントの苦難が「もの」に託されることにより、クライアントが日常的現実から神話的・呪術的な次元へと自らを開きつつ新たな現実へと抜け出ているということを指摘している。
 従来の研究に対する理論的な考察を経ながら、研究の焦点をフィールドの場へと返す力にみちた試みである点を高く評価する。

(受賞者)
猪瀬浩平
(授賞対象論文)
「空白を埋める―普通学級就学運動における『障害』をめぐる生き方の生成」
(『文化人類学』第70巻第3号, 2005年)
(授賞理由)
 猪瀬氏は、日本の障害児の普通学級就学をとりあげ、教室での出来事と障害者の家族の会が支援する就学運動をフィールドとして、厚みのある学校のエスノグラフィーを実現している。そこで、行政的・日常的常識に裏付けられた、健常者/障害者という二分法的カテゴリーがほぐされるには、家族をふくめた行為者間のたえまない折衝による漸進的な社会関係の布置の変化が必要であると指摘している。
 詳細な事例群に支えられた主張には強い説得力があり、「実践の共同体」理論を参照しつつ、現場的再編を図る力量にも確かなものがみとめられ、社会批判の人類学のひとつの可能性を示唆している点を高く評価する。


第1回日本文化人類学会賞・日本文化人類学会奨励賞の授賞について

2006年05月04日

第21期会長 加藤泰建

 2005年5月22日、北海道大学で行われた2005年度総会において、「日本文化人類学会学会賞選考規則」が承認され、本学会では「日本文化人類学会賞」と「日本文化人類学会奨励賞」とからなる学会賞が制定されました。これを受けて、第21期理事会では、2005年度、学会賞選考委員会の推薦にもとづき、両賞の受賞者の選考を行ったところです。なお、学会賞選考委員会は、理事会の議を経て学会長が委嘱した委員(理事3名、理事以外の会員2名)によって構成されます。
 制定された二つの賞のうち、日本文化人類学会賞は、「日本文化人類学会会員による研究活動の活性化のために、会員の中から過去5年間の研究活動において、もっとも優れた業績をあげた者を原則として1名選出し授与する」(「日本文化人類学会学会賞選考規則」より。ただし、2005年5月22日制定時の文言。以下同)ものです。受賞者の選考においては、学会賞選考委員会に対し、まず評議員会が投票によって複数の候補者を推薦します。次いで学会賞選考委員会は、それらの候補者の中から1名の候補者を選考して理事会に推薦します。理事会は、学会賞選考委員会からの推薦にもとづき、投票によって受賞者を決定します。
 他方、日本文化人類学会奨励賞は、「日本文化人類学会の若手研究者による研究活動の活性化のために、過去2年間に、研究活動においてもっとも優れた業績をあげた若手研究者を原則として1名選出し」、授与するものです。原則として対象論文掲載時に満35歳以下の会員を受賞資格者とします(ただし、年齢制限については研究歴を考慮します)。受賞者の選考においては、過去2年間の学会誌『文化人類学』(『民族学研究』、英文誌Japanese Review of Cultural Anthropologyを含む)に掲載された論文の執筆者のうち、受賞資格者の中から、学会賞選考委員会がもっとも優れた者を原則として1名選考して理事会に推薦し、その推薦を受けた理事会の投票によって受賞者を決定します。
 以上のような両賞の趣旨と選考手順にもとづき、厳正な選考を行った結果、2005年度は各賞の受賞者をそれぞれ次のように決定いたしました。
  
第1回日本文化人類学会賞受賞者川田順造会員
第1回日本文化人類学会奨励賞受賞者野元美佐会員
森田敦郎会員(姓の50音順)

 つきましては、授賞理由と併せ、会員のみなさまに授賞をお知らせいたします。


第1回日本文化人類学会賞の授賞

2006年3月16日

 日本文化人類学会は第1回日本文化人類学会賞を川田順造氏に授与することとした。

(授賞の理由)
 川田順造氏は、過去5年間において、10篇をこえる編著・単著を公刊しており、国内外で発表された論文も多数にのぼる。大家の域に達しながらもかわらぬ旺盛な研究活動は、会員の最近の研究活動の中で、とくに抜きん出たものがある。
 アフリカ研究への貢献はもとよりのこと、言語と文化研究、歴史研究、親族研究、開発研究、さらには人類学的認識論にわたるまで、文化人類学における複数領域を交差させながら描いた数々の著作は、高い研究水準を維持しつつ、その幅広さや奥深さにおいて、会員のみならず一般読者をも魅了してやまない。
 なかでも2004年に出版された『人類学的認識論のために』(岩波書店)は、川田氏の人類学者としての半世紀の研究を集大成したものであると同時に、現在の文化人類学が直面している状況に果敢に立ち向かう姿勢をうかがわせるものであり、わが学会の一つの到達点を示した稀有の労作といえよう。
 日本文化人類学会は、優れた研究業績をあげた会員であり、本学会の活性化に寄与している会員として川田順造氏を選考し、ここに日本文化人類学会賞を授与する。


第1回日本文化人類学会奨励賞の授賞

2006年03月16日

 日本文化人類学会は以下の2名に第1回日本文化人類学会奨励賞を授与することとした。

(受賞者)
野元美佐
(授賞対象論文)
「貨幣の意味を変える方法−カメルーン、バミレケのトンチン(頼母子講)に関する考察」
(『文化人類学』第69巻3号, pp.353-372, 2004年)
(授賞理由)
 野元氏は授賞対象論文において、カメルーンのバミレケ社会の貨幣を媒介にした頼母子講が、単なる近代的融資機関の代替物でも純粋な互酬的慣行でもなく、市場交換と贈与交換をつなぐ役割を果たしながら、嫉妬の対象ともなる貨幣を皆の資源としての貨幣へと意味を変換するものであると論じている。
 従来の研究に対する論考の位置づけと問題設定、資料の提示分析、そして理論的な考察を、過不足ない形でバランスよく構成している点を高く評価する。

(受賞者)
森田敦郎
(授賞対象論文)
「産業の生態学に向けて−産業と労働への人類学的アプローチの試み」
(『民族学研究』第68巻2号, pp.165-188, 2003年)
(授賞理由)
 森田氏は授賞対象論文において、産業と労働に関する学説史を丹念にたどりながら、近代化に伴って産業労働から社会関係が排除されるという既存の前提を疑う立場から先行研究を批判・再評価し、それをもとに社会関係を重視する人類学の手法を生かした「産業の生態学」という新たな分野の開拓を構想している。
 これまでの産業人類学と教育人類学からの取り組みを精査した上で、そこから新たな研究手法や理論的枠組みを導き出し、産業労働の人類学的研究の可能性を切り開いた点を高く評価する。


 なお、2006年1月15日の理事会決定により、今後、日本文化人類学会奨励賞の受賞者選考に当たっては、過去2年間ではなく、選考年度の前年度1年間を対象期間とするよう、「日本文化人類学会学会賞選考規則」に改正が加えられたことを申し添えます。