グローバル化の中で他者との出会いが不安や暴力に転化する危険性が認識される同時代的状況において、他者を肯定する西洋思想としての「歓待」が学際的な議論を呼んで久しい。本課題研究懇談会は、各自の民族誌的な調査研究をもとに新たな歓待論を再構築することにより、それらの学際的な議論に貢献しうる知見を提示し、人類学の古典的主題である歓待論を同時代的に有意味な主題として再生させるものである。
代表者:河野正治(日本学術振興会特別研究員PD/京都大学)
嗜好品は日本語独特の概念であり、嗜好品の消費は人類共通の慣習ともいえる一方で、人類学では等閑視されることが多かった。本研究は、嗜好品がそれぞれの社会でどのように生産、流通、消費されてきたのか、社会の文脈の中でどのように位置づけられ、どのように変化してきたのかということを人類学、歴史学のデータに基づいて比較し、さらには嗜好品という概念を検討し、資源人類学の議論に貢献すること、新たな「実験的民族誌」の可能性を開くことを目的とする。
代表者:大坪玲子(東京大学大学院)
近年、大学の医学部や看護学部、福祉系学部、および看護学校等において、文化人類学や医療人類学の講義が提供されるようになっている。また、現場の医療者から文化人類学者への期待も引き続き存在している。本懇談会では、これらの社会的要請に応えるため、日本で活動する医療人類学者の力を糾合して緩やかなネットワークを形成し、医療人類学教育に関するこれまでの蓄積を共有し、深化・発展させていくことを目的とする。
代表者: 浜田明範(関西大学)
本研究懇談会(通称:宇宙人類学)は、人類が本格的に宇宙に進出する21世紀において、「宇宙」という人類学の新たな研究領域・フィールドを開拓することを的とする。これまでの人類学の蓄積を踏まえ、人類学的知を応用・発展させ、宇宙進出に伴う文化的・社会的諸問題や技術開発が伴う現代的問題に取り組む。他分野の研究者、JAXA(宇宙航空開発研究機構)なども加わり、学際的研究テーマとして広く展開するための基盤構築を行う。
代表者: 岡田浩樹(神戸大学大学院国際文化学研究科)
本研究懇談会では、「文化人類学が社会へのいかなる応答性をもちうるか/いかに応答的でありうるか」という問いに答えようとする。人類学の応用性、実践性に関する従来の議論を含み込みつつも、「人類学の知を他領域に応用する」という論点に留まるのではなく、むしろ、フィールドワークと民族誌という人類学の営みそれ自体を、フィールドの人たちを含む同時代の諸関係の中に置き直す具体的な方法について検討したい。
代表者: 亀井伸孝(愛知県立大学外国語学部)
近年、東アジア間の移動の増加に伴い、観光地、職場、地域コミュニティにおけるトラブルがしきりにニュースで報道されるようになっている。だが、こうした葛藤や事件の多くが、東アジア各国/地域における社会・文化システムの違いに起因していることは、あまり注目されていない。本懇談会は、こうした社会・文化的な摩擦について、人類学内外の対話を従事する、公共人類学の立場から取り組むことを目的とする。
代表者: 河合洋尚(国立民族学博物館)
21世紀、人類社会は未曽有の危機に直面しているといわれる。一方、近代以降、高度に専門化・分化し、複雑化を遂げた現在の社会システムにおいては、その迅速かつ具体的な対応の指針が見出しにくくなっている。本懇談会では、地域コミュニティという観点に立脚しつつ、文化人類学および隣接諸分野の知見を発展的に統合し、今後の人類社会が危機を克服していくうえで有効な社会システムのあり方とその思想的裏づけを探求する。
代表者: 佐々木重洋(名古屋大学大学院文学研究科)
人類学にとって災害が重要な研究テーマであることが広く認識されるようになってきただけでなく、大規模な自然災害が発生するたびに、人類学(者)はどのように災害に関わるべきかの議論が起きている。こうした状況を背景に、現在進行する東日本大震災に対する人類学からの実践的・学問的な関与の在り方を集約・共有し、議論を通じて支援の在り方を模索するとともに、今後起こりうる災害に関わる際の資料集の作成を目的とする。
代表者: 林勲男(国立民族学博物館)
庶務: 木村周平(筑波大学)