日本文化人類学会「課題研究懇談会」設置の趣意

2011年6月11日

会長 渡邊欣雄
第24期理事会

 日本文化人類学会会員が調査研究の対象にする領域とテーマは、ますます多様化してきている。このような情勢のなかで、研究課題の探究を発展・深化させるため、課題を共有する会員同士が研究連携できるような制度を学会内に組織整備して欲しいという要望が、会員の間から出されてきた。これを契機に、まず第22期理事会では部会制導入が提案され、それを受けた第23期理事会のもとでは研究グループ制導入が提案された。これまでの二期半に亘る検討を踏まえて、第24期理事会は、以下のように本学会が直面する問題を認識し、ここに「課題研究懇談会」の設置を提案することにした。

 本学会は、現代の社会状況に対応した課題を文化人類学的視点から開拓してゆく責務を負っている。現実社会の越境状況や価値の流動化は、学問そのものにも従来の視野と知識の枠を越え出て現実に即して柔軟に迅速に対応することを求めている。しかも今日、その探究を個々の研究者が純学問的に精錬するだけでなく、学界や社会に対してその研究成果を発信し、社会的プレゼンスを明確化し高めることが強く緊急に求められている。したがって、「課題研究懇談会」の設置は、こうした要請に応えるために、個々の研究成果の共有・討議による視野の拡大・深化と、その成果の社会への応用という実践的意義を有する。また同時に、特定課題に関して外部から本学会に対して要請があった場合、あるいは学会外部の専門家と連携する場合、「課題研究懇談会」はそれに対応するための窓口となる可能性も有する。このように社会への対応性を高めていくことは、もともと学際的なかたちで社会を研究してきた文化人類学が、さらに今日の流動性・越境性という事態に即応するために当然なすべきことである。その意味での本学会での受け皿が「課題研究懇談会」である。

 以上のような理由で、本学会の下部組織として「課題研究懇談会」を設置することとし、そのために、次のような二つの措置をとる。第一に、学会内組織として積極的に位置づけるために、地区研究懇談会と同じように学会が予算を与えて支援することとする。第二に、そのメンバーは会員を中心とはするが、非会員の参加も一定の限度をもって許容し、その課題取り組みの越境性と柔軟性を担保することとする。

 現在2,000名近い会員を擁する本学会において、「課題研究懇談会」の設置は、学会員相互の学術交流を深めるだけでなく、学会外部から優れた研究成果を吸収して交流を推し進め、文化人類学研究の幅広い発展を促すことになる。そのように外に開かれた形で行われる課題別の研究活動や、その成果の発信によって、文化人類学の研究活動が多方面において「社会的認知」を高めると期待できる。なお、「課題研究懇談会」の研究成果が学会の代表的見解だという誤解が生じないよう、配慮と措置が取られる必要であることを明確にしておく。